三重県から神奈川県の測定器メーカーに就職した。
初めての社会人として生活をかけたものづくりの一日は不夜城と呼ばれる技術棟で始まった。
結婚し子供ができれば、その時から母子家庭。
みんながそれなりの理由をつけて頑張っていた。
それがものづくりとして普通の時代であった。
一人の新人がA社の技術課長(プロジェクトリーダー)のもとに配属。先輩の指導を受けながら、作るべき装置の国際規格や新規技術を分析し、必要な知識を身に着けていく。技術課長と営業がタグを組み、発注者との打ち合わせにより仕様が決まってゆく。技術者と利用者との打ち合わせも進み、仕様はほぼ全員が理解することになる。
それ以後、構造設計、ブロック設計、詳細設計と進むが、当時はマイクロプロセッサーの導入が検討された時期であり、新人技術者のパワーが必要であった。マイクロプロセッサー(プログラム)にどれだけの仕事をさせるのか、ハードにどれだけの機能を持たせるのか、従来の設計にはなかった思考が必要であった。いわゆるシステム設計である。
その新人技術者もマイクロプロセッサー上を走るアセンブラ言語を肌で感じた世代であった。
システム設計屋の誕生である。
下の写真はその新人技術者だ。
以後、彼の開発の一端を担った主な測定器と、それに伴う特許出願リストを以下に記載し、生活をかけたものづくりの紹介とする。
主な測定器の開発
・超長基線電波干渉装置(VLBI)の開発
・テレビジョン基幹放送所設備の特性・動作監視システムの開発
・高品位映像高能率TCM装置の開発
・新同期網(STM)伝送装置自動検査システムの開発
・非同期網試験装置(ATMアナライザー)の開発
特許出願リスト
| 名称 |
要約 |
| 陰極線管用信号波形の拡大・遅延掃引装置 |
陰極線管に表示される信号波形をデジタル的に拡大し、さらにデジタル的に遅延掃引することにより、温度変化に対する影響をなくすと共に、回路を簡素化し規模を小さくできるようにする。 |
| 2信号の波形相似度測定装置 |
2信号それぞれの波形面積と自己相関関係より求めた最大ピーク値とから類似度演算を行うことにより、2信号波形の類似度を定量的に求めることを可能とする。 |
| デジタルビデオ信号発生回路 |
輝度信号、色度信号及び同期信号ごとに記憶回路、D/A変換器を設け、アナログ化された各信号を合成することにより、所望の複合ビデオ信号を高速に得ることができるようにする。 |
| テレビ信号発生装置 |
テレビ信号波形を輝度成分波形、色度成分波形及び同期成分波形で記憶し、出力時にこれらを合成することにより、精度の高い試験用のテレビ信号を得る。 |
| 自己手順処理装置 |
ホスト制御装置から入力された各種メッセージを一旦記憶装置へ記憶したのち、起動メッセージ入力に応動する自己手順によって各メッセージを順次読みだして解読、実行することにより、ホスト制御装置の負担を大幅に軽減する。 |
| 多機能性を有するデジタル手法を用いたテレビジョン試験信号発生装置 |
試験テレビ信号波形をY,C,SYNCの複数の信号波形に分解し、その各信号波形を複数の関数とパラメータ形式で記憶させておくことにより、精度の高い任意の試験テレビ信号を作成可能にする。 |
| 試験装置 |
現在の試験条件を決定する設定項目の状態データに対し、変更設定可能な情報を一括して作成することにより、装置が矛盾した設定状態になることを防止する。 |
| データ入力装置 |
項目に応じた設定値のレンジ幅をファンクションキーの数に対応させて複数のパラメーター値に細分することにより、所望の数値設定を装置に既存するキーを利用して実現可能にし、装置の小型化を図る。 |
| 伝送装置の試験装置 |
例えば同期多重化伝送装置の多数の試験信号を用いて多数の試験項目にエラー測定を実施する場合に、試験を能率的に実施する。 |
| 伝送装置のAPS試験装置 |
2重化伝送システムに組み込まれた伝送装置における伝送路切り替え時間を含む時間応答性を正確に測定する。 |
| ATM試験装置 |
ATM伝送方式において、セル流から指定した複数のヘッダの一致をみてそのセルのみ選択することを可能にする。 |
超長基線電波干渉装置(VLBI)の開発:Very Long Baseline Interferometer S55~S59
VLBIシステムの中で下の写真に示す記録信号発生部(フォーマッタ)とデコードの設計を担当。記録信号発生部に関しては、鹿島郵政電波研究所で仕様の打ち合わせから、ハード設計とソフト設計を行い、デコーダーに関しては仕様を作成
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VLBI
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朝日新聞 S60/05/08
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VLBIの原理
テレビジョン基幹放送所設備の特性・動作監視システムの開発 S60~S63
本システムは大阪、仙台、広島、松山、福岡の各NHKのTV基幹放送所に納入された。
本システムの仕様打ち合わせから各放送所の設置まで、若いエンジニア4人で行った。
尚、本システムに使用しているビデオシグナルアナライザのハード設計及びソフトの設計の一端を担った。
新同期網(STM)伝送装置自動検査システムの開発 S64~H02
光ファイバー伝送技術の発展に伴い低価格で長距離、大容量伝送が可能となった。また通信内容は従来の音声信号中心からコンピュータ情報、画像情報を含み多様化してきた。これら大容量化、多様化に対応し、更に回線コストを大幅に低下させるためシンプルな構造の同期伝送路網が必要となった。通信方式の潮流は、従来の独立同期デジタルハイアラキーから同期デジタルハイアラキー(SDH)/同期ネットワーク(SONET)へと移行しつつある。
1998年のCCITT会議において新しい同期インターフェースの基本勧告が行われた。この勧告の主旨は日本系、北米系、ヨーロッパ系と3系統存在する世界のデジタル伝送ビットレート標準を、世界的新同期デジタル通信ネットワークの開発が進められている。
本システムはこのような新同期網の伝送装置を自動的に検査する計測システムである。
本システムの仕様打ち合わせからシステムのまとめを行った。また、本システムに使用しているSTM/SONETアナライザについてはシステムエンジニアとして開発に参加した。
非同期網試験装置(ATMアナライザー)の開発
ATM試験装置の開発には一つの思い出がある。
上記特許出願リストの最後尾に記載の【ATM伝送方式において、セル流から指定した複数のヘッダの一致をみてそのセルのみ選択することを可能にする】という機能を持つ回路の設計をした。
超高速で働く必要があるため、カスタムICを作ることになった。初めての経験である。CAD部門で回路設計された後、ある日出勤すると机の上に厚さ8㎝もある入出力信号のタイムチャートが置かれていた。直ぐにチェックしろというのである。「カスタムICの作り直しは年収が吹っ飛ぶぞ」と脅かされていた。チェックに頭を抱えていたが、ある日もういいやと開き直り、上司の庄司さんに全てOKですと伝えたのである。
カスタムICが出来上がってきた。・・・・
動作は完璧であった。(世の中で初のATM測定器。当時は大手T電気、H電気のATM伝送装置開発者には、お待ちかねであったろう。)
「人には限界がある。当時、ICのチェックなんてみんな半ばで放棄したに違いない」と今は思うことにしている。
現在のLSI(大規模集積回路)は、当時でどれぐらいのタイムチャートをチェックしろと言われるだろうか。
増してULSI( 超々大規模集積回路)何ぞ、月まで行く厚さ(根拠なし)だろう。
現在は完璧な設計即製品である。
いや、アイデア即製品かもしれない。
人間の介在する余地なんぞ今は無いのである。
間違いをする人間のチェックなんぞ必要ないのである。
いや、今は立場が逆だぞ。人間をチェックするAIがあるぞ。
おい、計測器屋!
AIの良し悪しを測定してみろよ。
AIなんぞに負けるんじゃねえぞ。
そんなこと言う資格はないが、ちょっと言ってみたかっただけ。
十年間
神奈川のH市にあるS団地の三階
よくぞ三重から来てくれた。
深夜、三階の窓から顔を出し、帰宅の姿を探してた、と最近ポロリと口からこぼれた。
そういえば、このときの十年間、先に寝ていたことはついぞなかった。
子供は三年で恩を返すというが、その通りだととしみじみ思う。
一人の観音さまと二人の地蔵さま。
結婚してからこの十年間の心の片付けだ。

新婚当初、神奈川のH市にあるマンモスS団地の三階に住み始めた。
富士山が素敵で、特に夕陽を背に暮れゆく景色に癒されていた。
生前最後の訪問(平成29年3月)
庄司さんは、この訪問の後、10月に他界された。
庄司○○様
先日は楽しい時間をありがとうございました。
あの魅力的な庄司節が益々深く冴えわたり、訪問して本当に良かったと妻と話しております。
奥様もお変わりなくすてきな笑顔でいらしゃいました。
素敵な色づかいの作品も拝見できました。
玄関口で智ちゃんにも少しだけですが会えました。素敵な娘さんになられてましたね。
お気に入りの写真が撮れました。庄司宅前での二人です。A4にして部屋に飾ります。
またメールいたします。
まずはお礼まで。
荒井隆夫
荒井様
遠いところありがとうございました。
「朋遠方より来る、また楽しからずや」
と言う事でしょうか。
貴兄が退社されて歳月が経つごとに、貴兄がビデオシグナルジェネレータ・アナライザやATMアナライザーのシステム設計をされ、いずれも立派な商品に仕上げて頂いた事にお礼をしなければとの思いが強くなっておりました。
本当にありがとうございました。
また、お会いして直に当時の思い出を語る事が出来、望外の春となりました。
これから桜が咲きます。
夏にはひまわりが咲きます、秋にはコスモスが咲きます。
今度はお土産など持たずにふらりとおいで下さい。
庄司○○

スキルと根性のディジタルビデオジェネレータ
郵便箱に、ありえない封筒が届いていた。A社の封筒である。
中には、かつて開発をしたディジタルビデオジェネレータのカタログがあった。
差出人は、庄司さんと私とタグを組んで製品開発をした友人であった。

石○ 順○様なぜ、A社?
封筒を見たときは正直びっくりしました。しかし、素晴らしいプレゼントでした。定年を迎えられたのですね。Aエンジニアリング一筋。幾度かの技術革新もあったでしょうね。それに立ち向かわれて乗り越えて今に至る。そういう貴兄に敬意を表します。おめでとうございます。!雇用延長ということで、更にスキルを上げ、技術のみならずその技術に立ち向かう在りよう、さらに立ち向かう彼らに適切なアドバイスや後方支援など、やはり貴兄のような存在が不可欠なのでしょう。私も振り返ってみると、社会福祉協議会では福祉票作成システムの開発、ボランティアシステムの開発、介護保険システムの担当、本部と支部群を100台近くのPCで繋ぐ仕様作り(システム会社が構築)等々、かつての技術者のスキルを当てにされることが多々ありました。今でもそのスキルに期待される場面もあります。その技術に立ち向かうスキルと根性は庄司さんと貴兄に鍛えられたものと正直思っております。庄司さんの製品に対する洞察力、貴兄の類いまれなソフトウェアの知見と突破力、私といえば二人に支えられひたすらハードウェア設計を中心に製品をまとめ上げようと努力しただけに過ぎません。貴兄が私に無理難題を投げ私が苦労したと言われますが、決してそうではありませんでした。投げかけられた課題の解決により完成度が増すということは、これまでの貴兄の実績から確実だと固く信じておりました。初めてづくしの技術(16ビットのマイクロプロセッサ、リアルタイムオペレーティングシステム、C言語、液晶パネル、ファンクションキー、フロッピーディスク、GPIB/RS-232C共用スロット等)が詰まった製品を世に送り出せたのも貴兄の努力よるものでした。開発中の言うに言われぬ熱気は、今になって思い出しても熱くなって来ます。それだからこそ、二人で北アルプスの鹿島槍ヶ岳や剣岳の登山ができたのではないかと思います。コロナ禍も落ち着き、ひと段落できましたら、ぜひ伊勢の国においでください。荒井 隆夫
お引越しの知らせ…来る!
橋〇 正〇 様
〇5年ぶりのUターンですって?!
振り返ってみると、同期エイトマンの一人としてA社に入社、エンジニアとして活躍し、そして役員、退社してから行政書士事務所の開設と眩しい活躍でした。
引っ越しカードには奥様と二人の連名でした。
これから仕事を離れ、二人で悠々自適の生活になるのでしょうか。
私の場合、あと三年程、仕事を続けてみるか…とこんな感じです。
2017年11月に突然夫婦で押しかけ、ご迷惑をおかけしました。
久しぶりに楽しい話が出来ました。
奥様にお会いできなかったことだけが心残りです。
帰り際、別部屋の様子が目に入ってきました。
確か、床が抜ける程多数の蔵書を記憶しております。
仕事関係の本ばかりではなく、哲学や宗教の本も沢山あったのではないでしょうか。
あれほどの蔵書があるとすれば、きっと、心には伝達したい想いが溢れているのではないでしょうか。
『書くとは瞬間を救い出すこと
第一が自分の経験を伝達する喜び
次に言葉で人や事物を永遠化させる喜び』
と、哲学者「ボーヴォワール」は語っています。
想うことから考えること、そして問いに溢れ、その問いに真摯に向き合うこと
青臭いと思われるかもしれませんが、私はこの思いで自分のホームページに向き合っております。
https://www.araitakao.jp
長くなりましたが、北海道に行く機会は、まだあると思います。
2017年と同様に是非お邪魔をさせてください。
私はLINEを使っていない骨董品ですので、是非Eメールアドレスを教えてください。
荒井 隆夫 拝
この写真はお気に入りの一枚です。